糖化って知ってますか?

第21回

今回は糖化と動脈硬化の関係についてお話ししたいと思います。

現在、日本人の3大死因として挙げられているのは、がん・心疾患・脳血管疾患という3つの疾患です。その3大死因のうち、心疾患・脳血管疾患があわせて50%以上占めており、この2つの疾患は、いずれも血管がつまる(梗塞)か、血管がぼろぼろになり破れる(脳出血)病気、すなわち動脈硬化が原因の疾患です。

分かりやすく例えると、庭などに水やりするためのホースを血管だとすると、買ったばかりのホースは表面もつるつるしていて伸縮性があり、水も漏れない優れものです。しかし、長年野ざらしにされたホースは徐々に表面はひび割れ、伸縮性がなくなり、ホースの中にはゴミのようなものが溜まったりして、そのうちどこからか水が漏れるようになってきます。これが血管において起こった状態が動脈硬化です。

この動脈硬化は、酸化と糖化の両方の影響によるものだと解明されています。中性脂肪やコレステロールは、糖化のみならず酸化の前駆物質でもあります。それらが血液中で増えた上、それぞれが酸化されたり、糖化されたりすることが原因となって、血管の壁はどんどん狭くなってつまりやすくなります。

また、血管の材料のひとつにコラーゲンがあります。以前に皮膚の糖化のところでお話ししたように、コラーゲンが糖化されると架橋結合という現象が起きて、コラーゲンの大切な働きである伸縮性に富んだ動きができなくなります。また、糖化されたコラーゲンは、血管の内膜に蓄積し、血管を詰まりやすくする原因にもなります。

このように糖化は動脈硬化とも深く関わっているのです。

第22回

今回は糖化と眼についてお話ししたいと思います。

私の知り合いの眼科医は眼を見るだけでおおよその年齢がわかるというくらい、老化と密接に結びついている器官が眼です。加齢に伴い眼の機能が徐々に低下していくことは、みなさんもよくわかっていると思います。加齢とともに増加する眼の疾患として、加齢黄斑変性症や緑内障などがありますが、世界における失明原因の約半数を占めている白内障もそのひとつです。50歳を過ぎると多かれ少なかれ、ほとんどの人に白内障が認められます。白内障は進行すると、まぶしい、だぶって見える、かすんで見えるなどの症状が現れ、手術をすることになります。実に日本では年に120万件もこの白内障の手術が行われているのです。

これまでお話ししてきた糖化は、私たちの体のすべての場所で均等に進んでいるわけではありません。生体内の各部位の糖化の程度は、それぞれの部位がどのくらいの速さでターンオーバーしているか、によって決まってきます。例えば粘膜などはターンオーバーのサイクルが早く、どんどん入れ替わっているため、糖化された老廃物(AGEs)が蓄積することは少ない部位です。しかし、眼の中の水晶体などは、ほとんど入れ替わることがないために、糖化された老廃物(AGEs)が溜まりやすいのです。実はAGE化した蛋白質が発見された最初の臓器がこの水晶体なのです。

ターンオーバーのほとんどない水晶体という部位に、AGE化した蛋白質が加齢とともに沈着していく、これが白内障の原因ではないかと現在は研究が進められています。ですから眼という器官にも糖化は深く関わっているのです。

第23回

これまで、糖化と糖化を抑制するための生活習慣についてお話してきました。 今回からは、「抗糖化物質」についてお話ししていきたいと思います。

私たちの研究室では積極的に糖化を抑制してくれる食品についての研究を行っています。野菜や海草類を食べるということが良いということは基本ですが、実際に糖化を抑制するという実証データがでている食品素材があるのです。

糖化は肌のハリを保っているコラーゲン繊維の構造を破壊する生体反応で、肌は正常の弾力性を失い、ハリやつやのない状態になってしまうとともに、糖化によって生じる老廃物が皮膚の細胞に溜まり、くすみや黒ずみの原因となることで、肌の透明感が失われてしまうとお話ししました。そのコラーゲン繊維の糖化を抑制してくれる素材というものがあります。

私たちの研究室では70種類以上の市販されている健康茶と言われるものについて、私たちが作製したコラーゲン糖化モデルに対し、どの程度の糖化抑制能力があるのかを調べる研究を行いました。その結果、ドクダミ茶、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶、シソ葉茶、熊笹茶、ハマ茶、ルイボスティーにコラーゲンの糖化に対し、強い抑制力があることがわかりました。

さらに、その8つの健康茶について、体内で起こる糖化モデルとして、ヒト血清アルブミンを使用した糖化モデルで検証したところ、ドクダミ茶、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶、ハマ茶の5種類は、体内モデルでも強い抗糖化能力を発揮していました。

これまでもドクダミ茶には、利尿、便通改善、高血圧予防などが、甜茶には、抗アレルギー、動脈硬化予防などが、柿の葉茶にはメラニン生成抑制、炎症抑制、高血圧予防などが、グアバ茶には、高血糖・コレステロール・高血圧の抑制などが、ハマ茶には利尿、便通改善などの効果が期待され、野草茶として長く飲用されてきました。 これらの他に今回抗糖化作用があることがわかったのです。

第24回

前回は健康茶の抗糖化能力についてお話ししました。 今回は、ではそのような抗糖化能力がある健康茶についてどのように普段摂取したら良いかについてお話しします。

前回ご紹介した研究では、1時間熱して抽出したものを使いました。皆さんもこれらの茶葉を同じように1時間熱して抽出したお茶を飲めば良いということになりますが、忙しい毎日をお過ごしの皆さんの中には、時間がもったいないとおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。

そこで私たちの研究室では、それでは3分間熱して抽出した場合、抗糖化能力はどうなるのかを続いて実験してみました。

コラーゲンの糖化モデルで強い抗糖化能力を持ち、後発酵という技術で飲みやすくしたドクダミ茶をベースに、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶をそれぞれ組み合わせて加えてみたところ、後発酵ドクダミ茶と甜茶の組み合わせと後発酵ドクダミ茶と甜茶、柿の葉茶を加えたものが3分間の抽出でもコラーゲンの糖化を抑制してくれることがわかりました。

このように3分間の抽出でもコラーゲンの糖化を抑制することが期待できる結果が得られたことは、比較的良くお茶を飲む習慣のある私たちにとっては、良い結果だったのではないでしょうか。

最後に、食品は薬と違ってある程度の期間摂取し続けることによって緩やかな効果を期待するものです。したがって、ある程度の効果を期待するためには、これらをコツコツと長く飲用することが望ましいということになります

第25回

前回まで2回にわたって抗糖化作用を有する健康茶についてお話してきました。 今回は健康茶以外で抗糖化作用を有するもののお話をします。

近年、機能性素材市場では抗糖化作用を有するとされる天然物が食品・化粧品原料および配合製品として供給され始めています。その中から身近なものを取り上げていきたいと思います。

●カモミール

ハーブとしてなじみの深い素材です。カモミールと呼ばれる植物には、キク科に属するジャーマンカモミールとローマンカモミールがあります。皆さん良く飲まれるのは、味が良いジャーマンカモミールかと思いますが、実はローマンカモミールの抽出エキスには「カマメロサイド」という成分が含まれ、それに抗糖化作用があるのです。 この「カマメロサイド」には細胞や組織・臓器傷害の原因となるNF-κBの抑制作用があることも報告されています。

●セイヨウサンザシ

セイヨウサンザシは古くから伝統医療として、果実は中国で消化器系に、果実・花・葉の混合物はヨーロッパで循環器系に用いられてきた。その後、果実・葉及び花に強心、血圧降下、抗不整脈、抗脂肪血症、抗菌、健胃、鎮痛などの作用が見いだされてきました。 そのセイヨウサンザシの実に抗糖化作用があることがわかっています。

第26回

今回も前回に引き続き、身近な抗糖化素材のお話をします。

それは、「サクラ」と「キク」です。この2つはいずれも日本の国花。しかもその美しい花で私たちの目を楽しませてくれるだけでなく、おめでたい時の桜茶であるとか、菊花和えなど食材としても日本人にはなじみの深いものです。この2つにも抗糖化作用があります。

●サクラ

桜と言えば、日本を象徴する花ですね。この原稿を書いている今現在、京都では桜の満開を迎えています。この日本の美の象徴とも言うべきサクラの花の抽出物には、シワやたるみの原因になるコラーゲンの糖化を抑制する抗糖化作用や線維芽細胞のコラーゲン格子形成の増加作用などが認められています。

●紫菊花

菊花、特に紫色の食用菊に多く含まれるルテオリンという成分に、体内でAGEを作らせない作用があることが、われわれの研究室での研究でわかってきました。 菊花といえば、古代中国では「邪気を祓い長生きする効能がある」と信じられてきました。その影響を受けた日本でも、旧暦9月9日の重陽の節句では、菊の香りを移した菊酒で長寿を願うという風習がありました。今でも秋の節句では菊の花に関する行事が行われています。 昔から体に良いとされているものには、やはり何らかの有用な成分が含まれていることが多いです。先人が長寿の願いを込めてきた菊の花が、現代のアンチエイジング研究からみてもとても良いことがわかりつつあることは、私としても感慨深いものがあります。

第27回

今回も引き続き、抗糖化素材のお話をします。

●マンゴスチン果皮

マンゴスチンは柔らかい果肉、強い甘みとさわやかな酸味で上品な味わいのため「果物の女王」と呼ばれ、タイやインドネシアなどの東南アジアから南アジアで広く栽培されているオトギリソウ科の果樹です。生食のほか、ドライフルーツやジュースなどに加工されていますので、皆さんも馴染みがあろうかと思います。また、マンゴスチンの果皮には、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種「キサントン」が多く含まれています。 これまでの報告で、in vitro試験により、マンゴスチンの果皮エキスが糖とコラーゲンの糖化(メイラード反応)を阻害し、高い抗糖化活性を有することがわかりました。また、私たちの研究室が協力した女性を対象にした摂取試験により、皮膚中のAGEs量の低下を確認しました。

第28回

今回は頭髪と頭皮の糖化についてお話しをします。

女性にとって美肌と同じくらい頭皮・頭髪は年齢とともに気になってくるものでしょう。この頭皮・頭髪にも糖化現象が起こるのです。 当然頭皮も皮膚ですから真皮層が存在しています。真皮は表皮の下にある2.0~3.0mmの層で、膠原繊維(コラーゲン線維)と弾性線維(エラスチン線維)、プロテオグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)などの細胞外マトリックスでできており、皮膚に弾力性と強さを与えています。真皮の乾燥重量の70%はコラーゲンが占め、皮膚に「はり」を与えています。一方、1~2%を占めるエラスチンは架橋構造を持ち、皮膚の「弾力性」を与えています。その他、真皮内には触感、心地良さ、温度を感じる神経終末、体温調節や皮膚にうるおいを与え柔軟な状態に保つ働きを保つための分泌腺(汗腺、皮脂腺)、毛包、血管などがあります。この真皮層に存在するコラーゲンやエラスチンが糖化されて真皮層が硬化すれば、分泌腺や毛包、血管などに影響が出てきます。こうなると当然毛髪を新たに作る力が衰えてきますし、髪質にも影響が出てきます。 ですから、頭皮ケア、毛髪ケアという観点からも抗糖化ということが最近注目されてきていますし、私たちの研究室でもこの研究に取り組んでいるところです。

第29回

今回は糖化を避ける生活習慣についてのまとめをお話ししたいと思います。

① 適正なカロリー摂取を心掛ける 食べすぎは血糖、中性脂肪、LDLコレステロールの血中濃度を高めてしまうため、糖化を促進してしまいます。

② 栄養バランスを考えた食事を摂る 炭水化物の取りすぎや蛋白不足を避ける。

③ よく噛む・ゆっくり食べる・食べる順番を考える (食物繊維)野菜・海草、(タンパク)肉・魚・卵 、(炭水化物)ご飯・麺・パンの順に食べるとよい。これにより急激な血糖上昇による糖化の促進が避けられます。

④ 異性化糖(果糖ブドウ糖液糖など)を含む菓子類・飲料を避ける 果糖はブドウ糖の約10~15倍糖化反応を起こしやすい。果糖というとフルーツが思い浮かびますが、果実には果糖、ブドウ糖、蔗糖(普通の砂糖と同じ)がバランス良く含まれています。またフルーツは線維・ペクチンを含み、血糖上昇が緩徐なので問題が少なく、デザートには菓子よりフルーツが推奨されます。果糖ブドウ糖液糖は芋やとうもろこしから工業生産される糖で値段が安いのですが、果糖を多く含んでおり、これらを含む飲料、菓子、調味料はできるだけ避けた方が良いでしょう。

⑤ アルコールはほどほどに アルコールは血糖を直接的には上げませんが、代謝されてアルデヒドになるため、糖化反応は起こります。飲みすぎは避けましょう。

⑥ 睡眠は6時間以上とるようにして、タバコはやめる 私たちの研究室でまとめたデータで、睡眠が6時間以内、アルコールの摂りすぎ、喫煙者は糖化リスクが高いことがわかっています。

以上が糖化を避けるための生活習慣のまとめです。皆さんの現在の生活習慣と是非照らし合わせてみてください。

第30回

これまで1年以上30回にわたり、皆さんに糖化についてお話をしてきました。 糖化のしくみや糖化しないためにどのように生活したらよいか?また抗糖化素材について…

取りあえずそのしくみはわかったし、どうしたら良いかもわかった。でも「わかっちゃいるけど、できそうにない」そんな人もいらっしゃるのではないでしょうか?

しかしちょっと待ってください。これを読んでいらっしゃる方々は、おそらく失いつつある「若さ」としのびよる「老化」の狭間でどうしたらよいかと思っていることでしょう。これに立ち向かっていくことは大変困難な道です。しかし、あれもこれもできそうにないからといってあきらめてしまっては、元も子もありません。

これまでのコラムを読んで、糖化しないために良いこと全部を毎日行うことを100点とした場合、これまで何もしてこなかった人が100点を目指すのはハードルが高すぎます。100点を目指せば、どうせ全部できないからとやらない。でも、何もしなかったら0点です。0点は1週間たっても1か月たっても0点です。

ですから私からの提案。簡単で始めやすく続けやすいことから取り組んでみましょう。そうすれば、0点ではなく、20点でも50点でも獲得できます。少しでもその良いこと点数を積み重ねていけば、1週間後、1年後の0点ではなく、何もしなかったより少しでも良い状態に持っていくことが可能です。その小さな積み重ねが、5年後10年後に大きな違いとなってあなたの肌や健康に表れてくるのです。

ひとまず糖化のお話は今回で終わりにします。これまでのコラムを参照して、一つでも良いから日常生活に取り入れてもらえればと思います。次回からは、アンチエイジングと美肌というさらに大きなテーマでお話をしていきたいと思います。その中でまた糖化について最新の情報があれば随時お話に盛り込んでいきます。