抗加齢医学(アンチエイジング)

■抗加齢医学(アンチエイジング)とは?

近年、日本でもよく耳にするようになった抗加齢医学(アンチエイジング)は、抗(あらが(う)、英語のアンチ)という言葉から、一般的に、老化防止や若返りのように言われていますが、実は、寿命を伸ばすための医学でも、不老不死の薬を発明することでも、永遠の若さと美を手に入れるための美容整形でもありません。 本当は、年齢を重ねても質の高いライフスタイルを送りたいと願う患者さんに対し、気力も体力も充実した「心とカラダ」をキープしていくためには今から何をすればいいのか、適切な食事・運動・精神療法を指導し、場合によってはビタミンやホルモンを処方するというものなのです。

■老化はひとつの病気。だから治るし予防もできる

近年、日本でもよく耳にするようになった抗加齢医学(アンチエイジング)は、抗(あらが(う)、英語のアンチ)という言葉から、一般的に、老化防止や若返りのように言われていますが、実は、寿命を伸ばすための医学でも、不老不死の薬を発明することでも、永遠の若さと美を手に入れるための美容整形でもありません。 本当は、年齢を重ねても質の高いライフスタイルを送りたいと願う患者さんに対し、気力も体力も充実した「心とカラダ」をキープしていくためには今から何をすればいいのか、適切な食事・運動・精神療法を指導し、場合によってはビタミンやホルモンを処方するというものなのです。
  • ① 遺伝的な要因
  • ② ホルモン分泌の低下
  • ③ 細胞の酸化
  • ④ タンパク質・糖質の変性(糖化)
このうち①については、今のところリスクの度合いを認識して予防する程度の手だてしかないのですが、②③④については、十分な対応策があります。 抗加齢医学のポリシーは「加齢や老化という経過的現象に対し、徹底的に対抗して人体として最良の状態を保っていく」というものですが、これは同時に「病気のモトとなるものにも、早め早めの対抗をしていくことです。抗加齢医学が、21世紀の究極の予防医学であると言われるゆえんでもあります。

肌と糖化
-第1回-

早くに老化した人、病的に老化した人の病状を診たとき、その疾病の種類はさまざまですが、分子レベルで見たときに必ず「糖化」という反応が起こっています。酸化は「体がサビる」現象ですが、糖化はいわば「体がコゲる」かのような強いダメージを体に与えて、高齢者モードへのスイッチを早々と押してしまいます。

まずはじめに、糖化(メイラード反応)とは、たんぱく質や脂肪などが糖(グルコース)と反応して変性してしまうという反応を言います。 1912年にフランスの科学者L・C・メイラードが提唱したことから名づけられました。身近な例では、ホットケーキを焼いたときの反応がわかりやすいでしょう。牛乳や卵に砂糖を混ぜて焼くと、こんがりと褐色に変化し、おいしそうな香りを放ちますが、これがメイラード反応、つまり糖化です。砂糖を煮詰めたときの「カラメル化」も、醤油や味噌の風味をよくする反応も同様です。「こんがり」「よい香り」「風味を増す」と、食材に関してはメリットの多い反応ですが、これが私たちの体の中で起こってくるとなると、話は変わってきます。
また、最近はこの糖化と肌の老化についての関係性も徐々に明らかになってきました。今後の連載ではそのあたりのことについても随時触れていきたいと思います。
そして実は現在、私たちを取り巻く生活環境が、この糖化を促進させる要素にあふれていることもこれから徐々に説明していくとともに、その対応策についてもお話してくつもりです。

糖尿病との関係
-第2回-

まず「糖化」を語る上で、糖尿病との関係を避けて通るわけにはいきません。 生体中の糖化反応については、1968年にヒトのヘモグロビン(酸素を運ぶたんぱく質)が、血液中のグルコースと反応して糖化することが発見されました。そのヘモグロビンは「ヘモグロビンA1c」と呼ばれ、糖尿病の代表的な検査「グリコヘモグロビン検査」の数値として知られています。糖尿病になるとこの値が上昇するのです。
恐ろしいのは、糖化と糖尿病合併症の関係です。糖尿病と診断されても自覚症状のない方がほとんどです。積極的な食事療法や運動療法も実践しない、もしくはできない人も少なくありません。糖尿病の患者さんは血中のグルコース濃度が高いので、糖化反応が起こりやすく、そのスピードがアップしてしまいます。そうすると糖尿病合併症を早々に引き起こしてしまうのです。気づかない間にジワジワと糖化が進み合併症が発症・進行してしまう・・・、これが恐ろしいところです。
現在、年間約4,000人の方が糖尿病網膜症によって高度の視力障害となり、糖尿病性腎症によって約14,000人が透析療法を受けています。糖尿病性神経障害によって年間約10,000人が下肢を切断、さらに糖尿病性血管障害によって、糖尿病患者の約40~50%が心筋梗塞や脳梗塞で亡くなっているというのが現状なのです。
これらの糖尿病合併症が悪化すればするほど、老化現象も拍車をかけて進みます。それは加齢による正常な老化とは違う「病的な老化」です。糖化は極端に早く「老ける人」を作ってしまうのです。
つまり、日本中に約2,200万人いる糖尿病予備軍もしくは糖尿病の方は、糖化を阻止し、アンチエイジングな生活習慣を実践することが、恐ろしい糖尿病合併症を予防することにもつながるのです。
また、最近はこの糖化と肌の老化についての関係性も徐々に明らかになってきました。今後の連載ではそのあたりのことについても随時触れていきたいと思います。
そして実は現在、私たちを取り巻く生活環境が、この糖化を促進させる要素にあふれていることもこれから徐々に説明していくとともに、その対応策についてもお話してくつもりです。

血糖値測定
-第3回-

前回までのお話を読んで、「なるべく糖化が起こらないようにしたいが、自分に糖化反応は起こっているのだろうか」と不安に思う人も多いかもしれません。糖化がどれだけ進んでいるかは、糖化によって生成される老廃物の量を測定する必要があります。
現在私たちの研究室では、糖尿病疾患などで加速的に生成が亢進されるAGEs(後期糖化反応生成物)の測定ができるAGEリーダーという機器で日本人のデータを積み重ねていますが、糖化によって生成された皮膚中の糖化最終生成物は、基本的には血糖値を測ることで大まかに把握できます。
簡易的に血糖値を測定する器具などを使って、食後の血糖値を測ってみてください。食後血糖値が200から210になる人は、その間に糖化反応が強く起こっていると考えられます。
健康診断などで血糖値やヘモグロビンA1cが正常であっても、食後三十分値、食後一時間値が200を超えるほど高いという場合があります。
その人たちの糖化反応は着実に進んでいることになるのです。

メタボリックシンドローム
-第4回-

食事で満腹感を感じたにもかかわらず、その2時間後に空腹感に襲われ、その後、3~4時間経つとその空腹感は治まる。そういうパターンの人は、食後三十分から一時間でグッと血糖値が上がり、インスリン分泌が促されます。
つまり、インスリン分泌が遅れ、過剰に出てくる傾向にあるのです。すると、インスリンの作用で血糖値が下がり、一時的に低血糖に陥ることで空腹感が刺激されてしまいます。
さらに、インスリンによって血糖値は下がりますが、そのときに発生していた血糖エネルギーはどうなるかといえば、インスリンの作用によって脂肪にかえられているのです。 血糖のエネルギーがどんどん肝臓に溜まり、内臓脂肪として蓄えられます。 午後7時ごろ、夕食をドカ食いしたのに、午後9時ごろになって、また何か食べ物を探してしまったという覚えはありませんか? そんな人は、たとえ健康診断で正常値だったとしても要注意です。

急激な血糖値の上昇とインスリンの大量分泌を繰り返していくうちに、インスリンが効かなくなり、インスリンをつくっている膵臓の中のランゲルハンス島の中の細胞が破壊されてしまいます。 これはメタボリック症候群を増長する「インスリン抵抗性の怖さ」としても注意が促されています。

肌老化
-第5回-

美しいハリのある肌を保ちたい人にとって、糖化はもっとも避けるべき生体反応です。これまで肌の老化に関しては「抗酸化ケア」が大切であるといわれてきましたが、糖化についても同様のケアが必要なことがわかってきました。
糖化で肌が衰えるとは、どういう状態なのでしょうか?それは糖尿病にかかった人の肌の変化を見ればすぐにわかります。糖尿病が進行すればするほど、肌はハリを失い、たるみ、黒ずんだ印象へと変化していきます。医師であれば、その肌の状態を見るだけで、「糖尿病がかなり進行している」ということが判断できるほどです。
糖化は、肌のハリを保っているコラーゲン繊維の構造を破壊する生体反応です。糖化によって、肌は正常の弾力性を失い、ハリやつやのない状態に変色してしまいます。 また、糖化によって生じる老廃物が皮膚の細胞に溜まり、くすみや黒ずみの原因となることで、肌の透明感が失われてしまいます。 これまで単に「老廃物」といわれてきたものの中に、糖化によって生成されたものが非常に多いということがわかってきたのです。

このコラムの最初に糖化は「体がコゲる反応」だと申し上げました。肌についても同様のことがいえるのです。つまり、糖化によって肌のたんぱく質や脂肪がコゲたような状態になる。コラーゲンたんぱくやケラスチンファイバーなどのたんぱく質が破壊され、「コゲる」と弾力性が失われるのです。

腸内環境と肌
-第6回-

美肌のために老廃物を排出する、いわゆるデトックスは女性の間でブームになっています。デトックスの方法として「便秘を解消する」があります。便秘は腸内に便が滞留することで、悪玉菌が増えて毒素を生産しています。その毒素は、腸管の壁を通して血液に逆流し、全身に回ってしまうのです。それが皮膚にも沈着することで、にきびや吹き出物などの原因となるのです。
そこで、さらなる老廃物を産出する糖化が加わると、老廃物は相乗効果で増えてしまい、にきび、吹き出物、くすみなどさまざまな肌トラブルに発展してしまいます。
糖化によって失うもの、それは肌のハリ、つや、輝くような透明感。これらを維持するためにデトックスをしたり、紫外線ケアや保湿ケアに精を出したりしても、内側から糖化によってコラーゲン組織が破壊されてしまうのであれば、焼け石に水です。
もちろん、酸化を防止することは大切ですが、それだけでは肌の若々しさは保てません。 これまで皮膚の老化は、酸化の影響が七割はあるといわれてきましたが、酸化と糖化を合わせて八割以上の影響があると思います。その内訳は定かではありませんが、これまで抗酸化ケアが重要だといわれてきたのと同じだけ、”抗糖化ケア”が必要だということです。

抗糖化ケア
-第7回-

前回、肌の若々しさは保つためには”抗糖化ケア”が必要だと言いました。では”抗糖化ケア”とはどのようなことなのでしょうか?これは何も難しいことではありません。血糖値を急激に上げない生活習慣のことです。現代の食生活の問題点は、血糖を急激に上げる食材や食べ方が多いことです。
以前にお話ししたように急激に血糖値が上がるとインスリンが大量に分泌されます。それによってインスリンに対する抵抗性が上昇してしまい、インスリンが効きづらくなってしまうのです。
例えば、喉が渇いたと言って空腹時に甘い清涼飲料水や甘みのある炭酸飲料を一気に飲むような行為はよくありません。空腹時の血糖は100程度でも、そこで甘いジュースを飲むと血糖値がグーッと上がり、インスリン濃度も急激に上昇します。 インスリンが大量に分泌されているため、血糖値が下がった後もインスリンは高い状態が続くのです。
インスリンの作用が効きすぎると、低血糖に陥ります。低血糖は体にとって非常に危険な状態ですから、今度はインスリンの効きを悪くするような働きが生体中におこるわけです。これがインスリン抵抗性のメカニズムです。 こうなってしまうとインスリンが分泌されても血糖値が下がりにくい、すなわち生体内が非常に糖化されやすい状態になってしまうのです。

低GI値食品
-第8回-

では、急激に血糖値を上げない食生活とはどのようなものでしょうか。 空腹時の甘いジュースやお菓子はもってのほか。精製された小麦粉を使ったパンなどを食べても血糖値はすぐに上がってしまいます。 精製された小麦粉のパンよりも、胚芽小麦やライ麦で作られたパン、白米よりも玄米を選ぶことで、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます。昔は精製されていなかった食品が多かったのです。今は急激に血糖値を上げる食品であふれてしまいました。精製されていない食品をゆっくり良く噛んで食べていれば、血糖値の上昇もちょうどよく上がるようなしくみになっているのです。
そうした食品の“糖化リスク”を調べるには、GI(グリセミックインデックス)値を利用するとよいでしょう。
GI値はブドウ糖100gを摂取した時の血糖上昇を100%として、同カロリーの炭水化物あるいは他の食品を摂取したときの血糖の上昇比を示す数値です。同じエネルギーでもGI値を比較して、低い方を選ぶことが糖化を防ぐポイントです。

食べ方の工夫
-第9回-

ダイエットをしている人たちはとかく「低カロリーかどうか」を気にしますが、GI値を目安に食品を選んでいくことも大切です。どちらを食べようか迷う時は、GI値の低い方を選んで食べるということが基本です。GI値が高い食べ物であれば、その食べ方を工夫することで血糖値の上昇を防ぐことができます。
たとえば同じオレンジでも、ジュースにしてしまって一気に飲むより、皮をむいてゆっくり食べる方が、血糖値は上がりにくくなります。GI値の高いものは、気をつけてゆっくり食べることを心がけるとよいでしょう。甘いものを食べてはだめ、というわけではありません。節度を持った食べ方をすれば良いのです。

ファストフード
-第10回-

ハンバーガーなどのファストフードは、トランス脂肪酸の観点から見ても、糖化の観点から見てもまったくいいところなし、アンチ・アンチエイジングの食事の代表格です。
ファストフードの揚げ物は利便性を重視してトランス脂肪酸が多い油を使っています。さめたフライドポテトは油が酸化しているのがほとんど。トランス脂肪酸のように酸化しやすい油は体によくありませんし、エネルギー量が高いのです。また、ファストフードとは短時間で食べられることがその名前をあらわすとおり、早食いによる食後血糖値の急上昇を招くリスクが大きくなります。
しかし、街にはファストフードのお店があふれています。手軽で価格も安いという点が受け入れられているのでしょう。アメリカでは、子どもの糖尿病罹患率が問題になっていますが、裕福な家庭の子どもより低所得者層の子どものほうが、糖尿病のリスクが高いという調査結果があります。裕福な層は食生活に気を配り、少々高くても極力安全で体によいものを選択するのに対し、低所得者層の子どもたちは、安いファストフードばかり食べてしまっているのです。しかもアメリカの先住民やヒスパニック系の移民たちは、もともと厳しい自然環境の中で生き残ってきた体質を受け継いでいるのに、そういう人々が急に過食に走ると、さらに太りやすいのです。
日本人も長い歴史の中で飢餓に耐えてサバイバルしてきた民族のひとつであり、穀類、野菜、魚中心の食事を続けてきたのに、いきなりファストフードでは、その反作用が大きいのは目に見えています。ですから、アンチエイジングを心がけるのであれば極力ファストフードは避けましょう。

食べる順序
-第11回-

糖化を避けるためには、何を食べるかもそうですが、食べる順番も大切です。血糖値が上がりやすい食品を後に回すのです。
とんかつ定食を例にしてみましょう。とんかつ定食が出てきたら、まずはキャベツを食べましょう。その際、ゆっくりと良く噛んでキャベツのもつほのかな甘みを楽しんでください。最近はキャベツのおかわりができるお店もありますので、可能ならおかわりして食べて下さい。その後はおもむろにメインのお肉を味わって、最後にご飯をおみそ汁とともにいただきます。
これが急激に血糖値を上げないコツです。できれば懐石料理やフランス料理のコースのように、1品ずつゆっくりといただくのが理想ですが、ご飯とおかずを交互に食べなくては気が済まない人は、まずは野菜類やGI値の低いものから食べることを心がけてください。それだけでも長期的に考えれば随分違ってきます。
このように同じメニューを食べる場合でも、食べる順番を心がけるだけで、糖化を防いでアンチエイジングにつながることをお忘れなく。

スイーツ
-第12回-

糖化のお話をするとよく聞かれることがあります。それは、甘いお菓子は食べない方がよいのでしょうか?という質問です。
お菓子類に多く含まれている砂糖やブドウ糖は、GI値が極めて高く、急激に血糖値を上げる食材の代表選手です。よく「脳のエネルギー源はブドウ糖」ということもいわれますが、脳の代替エネルギーは存在しますし、少なくとも現代日本の食生活では、極端なベジタリアンでもなければ砂糖不足(炭水化物不足)という事態はありえません。むしろ炭水化物の過剰摂取による糖化の促進の方が問題です。
しかし、お菓子なども絶対に食べていけないのではなく、空腹時にたくさん食べるのはよくないけれど、食事の後のデザートとして適量であれば、害は少ないということになります。
また、果物はどうですか?という質問も多いのですが、果物は食物繊維を多く含んでいるため、ジュースなどにせず、そのままゆっくりと食べるのであれば全く問題ありません。
むしろグレープフルーツなどは、パンなどの炭水化物や揚げ物などを食べる前に食べると血糖値や中性脂肪などの急激な上昇を抑えてくれる働きもあります。また、果物は調理をしないで食べられるため、調理で壊れやすいビタミンCなどのビタミン類を効率よく摂取できる利点もあります。ですので、甘いものが欲しくなったら、GI値の低い果物(グレープフルーツやオレンジ、りんご、みかん)などをゆっくりと食べることをおすすめします。

ダイエット
-第13回-

これをお読みになられている読者の方は、ダイエットにもご興味があるのではないでしょうか?キレイになることとダイエットは切っても切り離せない関係ですね。 実は、肥満を改善する場合も、糖化を避ける食事療法が有効であるという医学的な検証結果が発表されました。
肥満対策の食事療法には、カロリーを抑えた方がいい、脂肪を抑えた方がいい、炭水化物を抑えた方がいい、など様々な議論と検証がなされてきましたが、権威ある医学雑誌「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション」に「炭水化物ダイエット」が、一番効果的であるという論文が発表されたのです。
炭水化物を減らす食事療法としては、低インスリンダイエットやアトキンスダイエットなどが知られていると思います。麺類やご飯類を多く食べる日本では定着しませんでしたが、野菜とお肉だけでダイエットできるということで、アメリカでは一時ブームになった食事療法です。
つまり炭水化物が、特に血糖上昇とインスリン上昇を引き起こすという部分を問題視して、それを抑制するようなダイエット方法に肥満改善効果が認められているのではと解釈できます。大幅なカロリー制限はありませんので、比較的長続きしやすく、リバンウンドを引き起こしづらいダイエットになるのではないでしょうか。
ただ、昨今の傾向として既にやせ形の体型にも関わらず、ダイエットしてもっとやせたいと思う女性が多いように思われます。女性は必要以上にダイエットで皮下脂肪を減らすと、体が冷えてしまいますし、子宮や卵巣を育てる大切なホルモンは、脂肪から分泌されています。体脂肪が20%以下の場合は、ダイエットに走らず、炭水化物が6割、タンパク質と脂肪がそれぞれ2割というバランスの食事で、糖化を避けるためにゆっくり食べる、というアンチエイジング的食生活がおすすめです。

老化スイッチ
-第14回-

糖化という反応が恐ろしいのは、最終的に老化を促進する遺伝子のスイッチを押してしまうからです。
人が若者から高齢者に移行していく過程は、老化遺伝子のスイッチを押していく過程ともいえます。遺伝子は一つの細胞の中に3000~5000個あり、すべての遺伝子が常時働いているわけではありません。何かの作用に反応してスイッチが入ると、その遺伝子が働きだす。老化遺伝子のスイッチを押せば、老化モードへと移行していくことになります。
たとえば、皆さんが大好きなコラーゲンを合成する(作る)ときに必要な酵素を、若者はどんどん分泌します。しかし、老化の遺伝子のスイッチが入ると、たんぱく質を壊してしまうコラゲナーゼという酵素がでてくるのです。これによって、大切なコラーゲンの合成が妨げられ、皮膚の弾力性が低下していきます。
また、炎症反応やストレス反応に関するスイッチがどんどん押されていくと、あちこちが痛くなったり、ストレスを感じやすくなったりしていきます。炎症に関係する代表的な遺伝子がありますが、この働きを活性化するのが糖化です。これまで細胞内に存在していたけれど働いていなかった遺伝子が、糖化によってスイッチが押されてしまうのです。
アンチエイジング、言いかえればいつまでも若々しく美しくいるためには、老化モードになる遺伝子のスイッチを押さないことが大切です。スイッチが入るタイミングはできるだけ遅い方がいい。そのスイッチを押さないためには、糖化反応を抑える生活習慣を心がけることが大切なのです。

果物と糖化
-第15回-

これまで糖化しないためのアンチエイジング的食生活のお話をしてきましたが、皆さんの中に果糖などの糖分が含まれる果物は、糖化に対してどのような影響があるのか疑問に思う方がいるかもしれません。今回は果物と糖化の話をします。
「果物はデザートだし、甘みもあるから糖化には良くないのでは?」と思われるかも知れません。確かに急激な血糖値の上昇を避けるためには、甘いものはあまりお勧めできませんし、空腹時ではなく食後に食べるのがベターということになります。
しかし、こと果物に関しては反対を意味する研究結果が出ました。果物を先に食べてから食事を摂ることで、血糖値の上昇が緩やかになって糖化の害を軽減する可能性があることが分かったのです。
私たちの研究室では今年、フロリダ州政府柑橘局の協力を得て、グレープフルーツの糖代謝と脂質代謝に与える影響を調査しました。そこでは、「グレープフルーツを先に食べて食パンを食べたとき」「食パンのみを食べたとき」の血糖値・インスリンの上がり方を比較しました。 すると、先にグレープフルーツを食べたときの方が血糖値の上がり方、インスリンの分泌の仕方のいずれも良かったのです。
さらに「グレープフルーツを先に食べてかき揚げを食べたとき」と「かき揚げのみを食べたとき」で中性脂肪の上がり方を比較しましたが、その結果もグレープフルーツを先に食べたときの方が良かったのです。※臨床医学室ページ参照 この研究結果により、具体的に果物を先に食べる方が良いということが言えるようになりました。次回は、なぜ果物の結果が良かったのかお話します。

果物のすすめ
-第16回-

前回お話したように、果物(グレープフルーツ)を先に食べることによって、血糖値の上がり方を緩やかにできるということが私たちの研究で分かってきました。 なぜ果物には糖分が含まれているのに、パンやかき揚げより先に食べると血糖値の上がり方が緩やかになるのでしょう?

これは果物には食物繊維やビタミン類などが豊富に含まれているからです。果物そのものを食べるということは、糖分だけがそのまま取り入れられるのとは違うのです。
また、近年の他の研究でも果物はがんをはじめさまざまな生活習慣病に対して予防効果が高いことが分かっています。文部科学省、厚生労働省、農林水産省が決定した食生活指針においても果物は野菜と同様に毎日の食生活にとって必需品であると位置付けられています。
しかしながら、毎日の果物摂取の目安である200gに対し、現在の日本人の平均摂取量は約110g程度とまだまだ摂取が足りないのが現状です。特に20代~40代の方々の平均摂取量は約75g程度とさらに不足しています。
果物でしたら皮をむいて切るだけで、調理をせずに簡単に食べられますし、調理をすると損なわれてしまうビタミンCなどの大切な成分もきちんと取り入れられますから、忙しい朝にも最適です。「朝の果物は金」ということわざもあるくらいです。朝食の時はパン一枚ではなく、果物を一緒に摂ることをお勧めします。これにヨーグルトでも付ければ、バランスの取れた立派な朝食になります。

朝食
-第17回-

前回、果物なら皮をむいて切るだけで、調理をせずに簡単に食べられるので、忙しい朝にも最適とお話ししました。 皆さん、ちゃんと朝食を食べていますか?
朝食は英語で「ブレックファスト(Breakfast)」といいます。「Break」は「壊す」「破る」などの意味があり、「Fast」は、「早い」の他に、「断食」という意味があります。つまり、「睡眠は断食している状態」であると考えて、夜の断食を破って食事をすることから、「ブレックファスト」と言い表しているのです。
断食明けの食事、という面から改めて考えると、朝食を摂ることの大切さがわかってきます。
朝食をきちんと食べた場合の血糖値、インスリン(血糖を下げるホルモン)、インスリン拮抗ホルモン(血糖を上げるホルモン)の変化を下の図で見てみましょう。
血糖値の上昇は緩やかで、インスリンなどのホルモン分泌も規則正しく適量の分泌です。 これに対し、朝食を抜いた場合の図が下のものになります。
一目瞭然ですね。昼食時の血糖値のピークを見てください。なぜこのように血糖値が上がるかというと、朝食を抜いたことにより、低血糖状態が長く続き、血糖を保つためにインスリン拮抗ホルモン(血糖を上げるホルモン)が昼食前にたくさん分泌されている状態です。その状態で昼食を食べますから、当然食後の血糖値は通常に比べ高くなります。
さらに、今度は高くなった血糖値を下げるインスリンがたくさん分泌され、急激に血糖値が下がります。するとまたインスリン拮抗ホルモンが分泌され、血糖が上がりやすくなる。ジェットコースターのように血糖値や糖代謝に関係するホルモンが上下しています。
こうなれば、体内で糖化が進むのはもちろん、インスリンもインスリン拮抗ホルモンも膵臓から分泌されるため、膵臓に負担がかかり、糖尿病をはじめ、様々な病気のリスクが高まります。
ですから、朝食はとても大切です。必ず食べるように心がけましょう。

異性化糖
-第18回-

今回は糖化を大きく促進させてしまう「異性化糖」というものについてお話しします。
異性化糖とは、ブドウ糖と果糖を主成分とする液状糖で、原料はトウモロコシやジャガイモ、あるいはサツマイモなどのデンプンです。果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が 50% 未満のものを「ブドウ糖果糖液糖」、果糖含有率が 50% 以上 90% 未満のものを「果糖ブドウ糖液糖」、果糖含有率が 90% 以上のものを「高果糖液糖」、上記の液糖に 10% 以上の砂糖を加えたものを「砂糖混合異性化液糖(その液糖がブドウ糖果糖液糖なら砂糖混合ブドウ糖果糖液糖)」といいます。
“果糖”は、ブドウ糖の10倍も糖化を早めます。”果糖”によって生成されるAGEsは、私たちの研究室での実験でも以下のように、ブドウ糖より大幅に増えています。
このように“果糖”が多く含まれる「果糖ブドウ糖液糖」や「高果糖液糖」などの「異性化糖」は砂糖に比べて安価なため、菓子や清涼飲料水から調味料まで様々な加工食品に使われている一方で、糖化を大きく促進しますので、とりすぎに注意することが必要です。 また、“果糖”が良くないと言うと、果物が良くないようにとられがちですが、果物そのものの“果糖”含有量はそれほど高くない上、繊維やビタミン類なども豊富に含まれていますので、これまでお話ししてきたように適量を食べる分には全く問題ありません。

糖化と骨
-第19回-

今回は糖化と骨の関係についてお話ししたいと思います。
皆さん骨粗しょう症という病気をご存じだと思います。特に女性の方は聞きなれた病名でしょう。 1993年にWHOが「骨粗しょう症は骨密度が低下する疾患」と定義しましたが、2000年にNIH(米国国立公衆衛生研究所)で開催されたコンセンサス会議において、骨粗しょう症は「骨強度が低下する疾患であり、骨強度は骨密度のみならず骨質にも影響を受ける」と定義され、「骨強度=骨密度+骨質」と明記されました。つまり、骨密度以外に骨強度に影響を与える因子として、骨質の重要性が論じられるようになってきたのです。
さらに、骨質をみていく上で、骨基質の主要な構成成分であるコラーゲンの善し悪しが重要とされるようになってきました。
コラーゲンは骨の体積あたり50%を占める主要な線維タンパクで、α(アルファ)鎖3本から成る3重らせん構造をとっています。
細胞外に分泌されたコラーゲン分子は、規則正しく配列する際に、隣り合う分子間や分子内に架橋結合を形成します。この架橋には骨強度を高める善玉架橋と、骨を脆弱にする悪玉架橋があります。
これまでお話をしてきたような糖化が進みやすい生活をしていると、この悪玉架橋が過剰に形成され、コラーゲンからしなやかさを失わせ、硬くてもろい状態へと変化させ骨密度を低下させます。
ですから、骨粗しょう症を予防するためには、骨の材料となるミネラルを十分に摂取し、その材料を沈着させるために、骨に刺激を与える運動を行うとともに、糖化されにくい生活習慣を心掛けることが大切なのです。

アルツハイマー病
-第20回-

前回は糖化と骨の関係についてお話ししましたが、今回は糖化とアルツハイマー病の関係についてお話しします。
アルツハイマー病は、脳を構成している神経細胞が通常の老化よりも急速に減ってしまうことによって、正常な働きを徐々に失っていき、認知症(痴呆)になっていく病気です。原因はまだわかっていませんが、遺伝的な要因に加えて生活環境の影響が重なり、発病すると考えられています。
アルツハイマー病の原因として、アミロイドβ蛋白の蓄積があげられますが、このアミロイドβ蛋白は40個のアミノ酸からできており、16と28番目のアミノ酸が糖化されると推定されています。またアルツハイマー病の患者脳の前頭葉から得た蛋白分画には、健常老人と比べて3倍のAGEsを含むことが報告されています。
現在、アミロイドβ蛋白のAGE化は2次的な修飾として起こるという考え方が主流ですが、糖化による蛋白質間の架橋がアミロイドβ蛋白の凝集・沈着を促進・加速する因子として関与しているとも考えられています。 また、糖化によって産生されるAGEs(後期糖化反応生成物)が神経細胞のアポトーシス(細胞死)とも関係していることが分かっています。
これらのことは、糖尿病の患者ではアルツハイマー病の発症率が健常人に比べて高いことからも裏付けられます。
いつまでも若々しくきれいで元気に、もちろん認知症などにもならず自立した生活を送るためには、これまでにお話ししてきた糖化をさせない生活習慣を実践することが大切なのです。

糖化と動脈硬化
-第21回-

今回は糖化と動脈硬化の関係についてお話ししたいと思います。
現在、日本人の3大死因として挙げられているのは、がん・心疾患・脳血管疾患という3つの疾患です。その3大死因のうち、心疾患・脳血管疾患があわせて50%以上占めており、この2つの疾患は、いずれも血管がつまる(梗塞)か、血管がぼろぼろになり破れる(脳出血)病気、すなわち動脈硬化が原因の疾患です。
分かりやすく例えると、庭などに水やりするためのホースを血管だとすると、買ったばかりのホースは表面もつるつるしていて伸縮性があり、水も漏れない優れものです。しかし、長年野ざらしにされたホースは徐々に表面はひび割れ、伸縮性がなくなり、ホースの中にはゴミのようなものが溜まったりして、そのうちどこからか水が漏れるようになってきます。これが血管において起こった状態が動脈硬化です。
この動脈硬化は、酸化と糖化の両方の影響によるものだと解明されています。中性脂肪やコレステロールは、糖化のみならず酸化の前駆物質でもあります。それらが血液中で増えた上、それぞれが酸化されたり、糖化されたりすることが原因となって、血管の壁はどんどん狭くなってつまりやすくなります。

また、血管の材料のひとつにコラーゲンがあります。以前に皮膚の糖化のところでお話ししたように、コラーゲンが糖化されると架橋結合という現象が起きて、コラーゲンの大切な働きである伸縮性に富んだ動きができなくなります。また、糖化されたコラーゲンは、血管の内膜に蓄積し、血管を詰まりやすくする原因にもなります。

このように糖化は動脈硬化とも深く関わっているのです。

糖化と眼
-第22回-

今回は糖化と眼についてお話ししたいと思います。 私の知り合いの眼科医は眼を見るだけでおおよその年齢がわかるというくらい、老化と密接に結びついている器官が眼です。加齢に伴い眼の機能が徐々に低下していくことは、みなさんもよくわかっていると思います。加齢とともに増加する眼の疾患として、加齢黄斑変性症や緑内障などがありますが、世界における失明原因の約半数を占めている白内障もそのひとつです。50歳を過ぎると多かれ少なかれ、ほとんどの人に白内障が認められます。白内障は進行すると、まぶしい、だぶって見える、かすんで見えるなどの症状が現れ、手術をすることになります。実に日本では年に120万件もこの白内障の手術が行われているのです。
これまでお話ししてきた糖化は、私たちの体のすべての場所で均等に進んでいるわけではありません。生体内の各部位の糖化の程度は、それぞれの部位がどのくらいの速さでターンオーバーしているか、によって決まってきます。例えば粘膜などはターンオーバーのサイクルが早く、どんどん入れ替わっているため、糖化された老廃物(AGEs)が蓄積することは少ない部位です。しかし、眼の中の水晶体などは、ほとんど入れ替わることがないために、糖化された老廃物(AGEs)が溜まりやすいのです。実はAGE化した蛋白質が発見された最初の臓器がこの水晶体なのです。

ターンオーバーのほとんどない水晶体という部位に、AGE化した蛋白質が加齢とともに沈着していく、これが白内障の原因ではないかと現在は研究が進められています。ですから眼という器官にも糖化は深く関わっているのです。

抗糖化物質
-第23回-

これまで、糖化と糖化を抑制するための生活習慣についてお話してきました。 今回からは、「抗糖化物質」についてお話ししていきたいと思います。 私たちの研究室では積極的に糖化を抑制してくれる食品についての研究を行っています。野菜や海草類を食べるということが良いということは基本ですが、実際に糖化を抑制するという実証データがでている食品素材があるのです。
糖化は肌のハリを保っているコラーゲン繊維の構造を破壊する生体反応で、肌は正常の弾力性を失い、ハリやつやのない状態になってしまうとともに、糖化によって生じる老廃物が皮膚の細胞に溜まり、くすみや黒ずみの原因となることで、肌の透明感が失われてしまうとお話ししました。そのコラーゲン繊維の糖化を抑制してくれる素材というものがあります。
私たちの研究室では70種類以上の市販されている健康茶と言われるものについて、私たちが作製したコラーゲン糖化モデルに対し、どの程度の糖化抑制能力があるのかを調べる研究を行いました。その結果、ドクダミ茶、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶、シソ葉茶、熊笹茶、ハマ茶、ルイボスティーにコラーゲンの糖化に対し、強い抑制力があることがわかりました。
さらに、その8つの健康茶について、体内で起こる糖化モデルとして、ヒト血清アルブミンを使用した糖化モデルで検証したところ、ドクダミ茶、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶、ハマ茶の5種類は、体内モデルでも強い抗糖化能力を発揮していました。
これまでもドクダミ茶には、利尿、便通改善、高血圧予防などが、甜茶には、抗アレルギー、動脈硬化予防などが、柿の葉茶にはメラニン生成抑制、炎症抑制、高血圧予防などが、グアバ茶には、高血糖・コレステロール・高血圧の抑制などが、ハマ茶には利尿、便通改善などの効果が期待され、野草茶として長く飲用されてきました。 これらの他に今回抗糖化作用があることがわかったのです。

健康茶の飲み方
-第24回-

前回は健康茶の抗糖化能力についてお話ししました。 今回は、そのような抗糖化能力がある健康茶についてどのように普段摂取したら良いかについてお話しします。
前回ご紹介した研究では、1時間熱して抽出したものを使いました。皆さんもこれらの茶葉を同じように1時間熱して抽出したお茶を飲めば良いということになりますが、忙しい毎日をお過ごしの皆さんの中には、時間がもったいないとおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
そこで私たちの研究室では、それでは3分間熱して抽出した場合、抗糖化能力はどうなるのかを続いて実験してみました。

コラーゲンの糖化モデルで強い抗糖化能力を持ち、後発酵という技術で飲みやすくしたドクダミ茶をベースに、甜茶、柿の葉茶、グアバ茶をそれぞれ組み合わせて加えてみたところ、後発酵ドクダミ茶と甜茶の組み合わせと後発酵ドクダミ茶と甜茶、柿の葉茶を加えたものが3分間の抽出でもコラーゲンの糖化を抑制してくれることがわかりました。
このように3分間の抽出でもコラーゲンの糖化を抑制することが期待できる結果が得られたことは、比較的良くお茶を飲む習慣のある私たちにとっては、良い結果だったのではないでしょうか。
最後に、食品は薬と違ってある程度の期間摂取し続けることによって緩やかな効果を期待するものです。したがって、ある程度の効果を期待するためには、これらをコツコツと長く飲用することが望ましいということになります。

抗糖化素材-❶
-第25回-

前回まで2回にわたって抗糖化作用を有する健康茶についてお話してきました。 今回は健康茶以外で抗糖化作用を有するもののお話をします。
近年、機能性素材市場では抗糖化作用を有するとされる天然物が食品・化粧品原料および配合製品として供給され始めています。その中から身近なものを取り上げていきたいと思います。
●カモミール
ハーブとしてなじみの深い素材です。カモミールと呼ばれる植物には、キク科に属するジャーマンカモミールとローマンカモミールがあります。皆さん良く飲まれるのは、味が良いジャーマンカモミールかと思いますが、実はローマンカモミールの抽出エキスには「カマメロサイド」という成分が含まれ、それに抗糖化作用があるのです。 この「カマメロサイド」には細胞や組織・臓器傷害の原因となるNF-κBの抑制作用があることも報告されています。
●セイヨウサンザシ
セイヨウサンザシは古くから伝統医療として、果実は中国で消化器系に、果実・花・葉の混合物はヨーロッパで循環器系に用いられてきた。その後、果実・葉及び花に強心、血圧降下、抗不整脈、抗脂肪血症、抗菌、健胃、鎮痛などの作用が見いだされてきました。 そのセイヨウサンザシの実に抗糖化作用があることがわかっています。

抗糖化素材-➋
-第26回-

今回も前回に引き続き、身近な抗糖化素材のお話をします。
それは、「サクラ」と「キク」です。この2つはいずれも日本の国花。しかもその美しい花で私たちの目を楽しませてくれるだけでなく、おめでたい時の桜茶であるとか、菊花和えなど食材としても日本人にはなじみの深いものです。この2つにも抗糖化作用があります。
●サクラ
桜と言えば、日本を象徴する花ですね。この原稿を書いている今現在、京都では桜の満開を迎えています。この日本の美の象徴とも言うべきサクラの花の抽出物には、シワやたるみの原因になるコラーゲンの糖化を抑制する抗糖化作用や線維芽細胞のコラーゲン格子形成の増加作用などが認められています。
●紫菊花
菊花、特に紫色の食用菊に多く含まれるルテオリンという成分に、体内でAGEを作らせない作用があることが、われわれの研究室での研究でわかってきました。 菊花といえば、古代中国では「邪気を祓い長生きする効能がある」と信じられてきました。その影響を受けた日本でも、旧暦9月9日の重陽の節句では、菊の香りを移した菊酒で長寿を願うという風習がありました。今でも秋の節句では菊の花に関する行事が行われています。 昔から体に良いとされているものには、やはり何らかの有用な成分が含まれていることが多いです。先人が長寿の願いを込めてきた菊の花が、現代のアンチエイジング研究からみてもとても良いことがわかりつつあることは、私としても感慨深いものがあります。

抗糖化素材-❸
-第27回-

今回も引き続き、抗糖化素材のお話をします。
●マンゴスチン果皮
マンゴスチンは柔らかい果肉、強い甘みとさわやかな酸味で上品な味わいのため「果物の女王」と呼ばれ、タイやインドネシアなどの東南アジアから南アジアで広く栽培されているオトギリソウ科の果樹です。生食のほか、ドライフルーツやジュースなどに加工されていますので、皆さんも馴染みがあろうかと思います。また、マンゴスチンの果皮には、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種「キサントン」が多く含まれています。 これまでの報告で、in vitro試験により、マンゴスチンの果皮エキスが糖とコラーゲンの糖化(メイラード反応)を阻害し、高い抗糖化活性を有することがわかりました。また、私たちの研究室が協力した女性を対象にした摂取試験により、皮膚中のAGEs量の低下を確認しました。

頭髪・頭皮と糖化
-第28回-

今回は頭髪と頭皮の糖化についてお話しをします。
女性にとって美肌と同じくらい頭皮・頭髪は年齢とともに気になってくるものでしょう。この頭皮・頭髪にも糖化現象が起こるのです。 当然頭皮も皮膚ですから真皮層が存在しています。真皮は表皮の下にある2.0~3.0mmの層で、膠原繊維(コラーゲン線維)と弾性線維(エラスチン線維)、プロテオグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)などの細胞外マトリックスでできており、皮膚に弾力性と強さを与えています。真皮の乾燥重量の70%はコラーゲンが占め、皮膚に「はり」を与えています。一方、1~2%を占めるエラスチンは架橋構造を持ち、皮膚の「弾力性」を与えています。その他、真皮内には触感、心地良さ、温度を感じる神経終末、体温調節や皮膚にうるおいを与え柔軟な状態に保つ働きを保つための分泌腺(汗腺、皮脂腺)、毛包、血管などがあります。この真皮層に存在するコラーゲンやエラスチンが糖化されて真皮層が硬化すれば、分泌腺や毛包、血管などに影響が出てきます。こうなると当然毛髪を新たに作る力が衰えてきますし、髪質にも影響が出てきます。 ですから、頭皮ケア、毛髪ケアという観点からも抗糖化ということが最近注目されてきていますし、私たちの研究室でもこの研究に取り組んでいるところです。

まとめ
-第29回-

今回は糖化を避ける生活習慣についてのまとめをお話ししたいと思います。

① 適正なカロリー摂取を心掛ける 食べすぎは血糖、中性脂肪、LDLコレステロールの血中濃度を高めてしまうため、糖化を促進してしまいます。

② 栄養バランスを考えた食事を摂る 炭水化物の取りすぎや蛋白不足を避ける。

③ よく噛む・ゆっくり食べる・食べる順番を考える(食物繊維)野菜・海草、(タンパク)肉・魚・卵
、(炭水化物)ご飯・麺・パンの順に食べるとよい。これにより急激な血糖上昇による糖化の促進が避けられます。

④ 異性化糖(果糖ブドウ糖液糖など)を含む菓子類・飲料を避ける 果糖はブドウ糖の約10~15倍糖化反応を起こしやすい。果糖というとフルーツが思い浮かびますが、果実には果糖、ブドウ糖、蔗糖(普通の砂糖と同じ)がバランス良く含まれています。またフルーツは線維・ペクチンを含み、血糖上昇が緩徐なので問題が少なく、デザートには菓子よりフルーツが推奨されます。果糖ブドウ糖液糖は芋やとうもろこしから工業生産される糖で値段が安いのですが、果糖を多く含んでおり、これらを含む飲料、菓子、調味料はできるだけ避けた方が良いでしょう。

⑤ アルコールはほどほどに アルコールは血糖を直接的には上げませんが、代謝されてアルデヒドになるため、糖化反応は起こります。飲みすぎは避けましょう。

⑥ 睡眠は6時間以上とるようにして、タバコはやめる 私たちの研究室でまとめたデータで、睡眠が6時間以内、アルコールの摂りすぎ、喫煙者は糖化リスクが高いことがわかっています。 以上が糖化を避けるための生活習慣のまとめです。皆さんの現在の生活習慣と是非照らし合わせてみてください。

最後に…
-第30回-

これまで1年以上30回にわたり、皆さんに糖化についてお話をしてきました。 糖化のしくみや糖化しないためにどのように生活したらよいか?また抗糖化素材について…
取りあえずそのしくみはわかったし、どうしたら良いかもわかった。でも「わかっちゃいるけど、できそうにない」そんな人もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかしちょっと待ってください。これを読んでいらっしゃる方々は、おそらく失いつつある「若さ」としのびよる「老化」の狭間でどうしたらよいかと思っていることでしょう。これに立ち向かっていくことは大変困難な道です。しかし、あれもこれもできそうにないからといってあきらめてしまっては、元も子もありません。
これまでのコラムを読んで、糖化しないために良いこと全部を毎日行うことを100点とした場合、これまで何もしてこなかった人が100点を目指すのはハードルが高すぎます。100点を目指せば、どうせ全部できないからとやらない。でも、何もしなかったら0点です。0点は1週間たっても1か月たっても0点です。
ですから私からの提案。簡単で始めやすく続けやすいことから取り組んでみましょう。そうすれば、0点ではなく、20点でも50点でも獲得できます。少しでもその良いこと点数を積み重ねていけば、1週間後、1年後の0点ではなく、何もしなかったより少しでも良い状態に持っていくことが可能です。その小さな積み重ねが、5年後10年後に大きな違いとなってあなたの肌や健康に表れてくるのです。
ひとまず糖化のお話は今回で終わりにします。これまでのコラムを参照して、一つでも良いから日常生活に取り入れてもらえればと思います。次回からは、アンチエイジングと美肌というさらに大きなテーマでお話をしていきたいと思います。その中でまた糖化について最新の情報があれば随時お話に盛り込んでいきます。
同志社大学アンチエイジングリサーチセンター

《研究テーマ》
■身体における老化度の診断と評価方法の確立
■加齢に伴う筋肉量の退行性変化
■ヒトにおける老化促進因子の研究(酸化ストレス・糖化ストレス・心身ストレス・生活習慣など)
■ヒトおよび実験動物の酸化ストレスや糖化ストレスに関する基礎的研究
■地域医療および労働衛生におけるエイジングケアのエビデンスの構築
■糖化ストレスマーカー測定方法の研究
■糖化ストレス制御物質の研究
■糖化ストレス生成物の分解・排泄経路の研究
【研究室の詳細はHPでご確認ください】
https://www.yonei-labo.com