糖化って知ってますか?

第1回

早くに老化した人、病的に老化した人の病状を診たとき、その疾病の種類はさまざまですが、分子レベルで見たときに必ず「糖化」という反応が起こっています。酸化は「体がサビる」現象ですが、糖化はいわば「体がコゲる」かのような強いダメージを体に与えて、高齢者モードへのスイッチを早々と押してしまいます。 まずはじめに、糖化(メイラード反応)とは、たんぱく質や脂肪などが糖(グルコース)と反応して変性してしまうという反応を言います。 1912年にフランスの科学者L・C・メイラードが提唱したことから名づけられました。身近な例では、ホットケーキを焼いたときの反応がわかりやすいでしょう。牛乳や卵に砂糖を混ぜて焼くと、こんがりと褐色に変化し、おいしそうな香りを放ちますが、これがメイラード反応、つまり糖化です。砂糖を煮詰めたときの「カラメル化」も、醤油や味噌の風味をよくする反応も同様です。「こんがり」「よい香り」「風味を増す」と、食材に関してはメリットの多い反応ですが、これが私たちの体の中で起こってくるとなると、話は変わってきます。

また、最近はこの糖化と肌の老化についての関係性も徐々に明らかになってきました。今後の連載ではそのあたりのことについても随時触れていきたいと思います。 そして実は現在、私たちを取り巻く生活環境が、この糖化を促進させる要素にあふれていることもこれから徐々に説明していくとともに、その対応策についてもお話してくつもりです。

第2回

まず「糖化」を語る上で、糖尿病との関係を避けて通るわけにはいきません。 生体中の糖化反応については、1968年にヒトのヘモグロビン(酸素を運ぶたんぱく質)が、血液中のグルコースと反応して糖化することが発見されました。そのヘモグロビンは「ヘモグロビンA1c」と呼ばれ、糖尿病の代表的な検査「グリコヘモグロビン検査」の数値として知られています。糖尿病になるとこの値が上昇するのです。

恐ろしいのは、糖化と糖尿病合併症の関係です。糖尿病と診断されても自覚症状のない方がほとんどです。積極的な食事療法や運動療法も実践しない、もしくはできない人も少なくありません。糖尿病の患者さんは血中のグルコース濃度が高いので、糖化反応が起こりやすく、そのスピードがアップしてしまいます。そうすると糖尿病合併症を早々に引き起こしてしまうのです。気づかない間にジワジワと糖化が進み合併症が発症・進行してしまう・・・、これが恐ろしいところです。 現在、年間約4,000人の方が糖尿病網膜症によって高度の視力障害となり、糖尿病性腎症によって約14,000人が透析療法を受けています。糖尿病性神経障害によって年間約10,000人が下肢を切断、さらに糖尿病性血管障害によって、糖尿病患者の約40~50%が心筋梗塞や脳梗塞で亡くなっているというのが現状なのです。 これらの糖尿病合併症が悪化すればするほど、老化現象も拍車をかけて進みます。それは加齢による正常な老化とは違う「病的な老化」です。糖化は極端に早く「老ける人」を作ってしまうのです。 つまり、日本中に約2,200万人いる糖尿病予備軍もしくは糖尿病の方は、糖化を阻止し、アンチエイジングな生活習慣を実践することが、恐ろしい糖尿病合併症を予防することにもつながるのです。 また、最近はこの糖化と肌の老化についての関係性も徐々に明らかになってきました。今後の連載ではそのあたりのことについても随時触れていきたいと思います。 そして実は現在、私たちを取り巻く生活環境が、この糖化を促進させる要素にあふれていることもこれから徐々に説明していくとともに、その対応策についてもお話してくつもりです。

第3回

前回までのお話を読んで、「なるべく糖化が起こらないようにしたいが、自分に糖化反応は起こっているのだろうか」と不安に思う人も多いかもしれません。糖化がどれだけ進んでいるかは、糖化によって生成される老廃物の量を測定する必要があります。

現在私たちの研究室では、糖尿病疾患などで加速的に生成が亢進されるAGEs(後期糖化反応生成物)の測定ができるAGEリーダーという機器で日本人のデータを積み重ねていますが、糖化によって生成された皮膚中の糖化最終生成物は、基本的には血糖値を測ることで大まかに把握できます。 簡易的に血糖値を測定する器具などを使って、食後の血糖値を測ってみてください。食後血糖値が200から210になる人は、その間に糖化反応が強く起こっていると考えられます。 健康診断などで血糖値やヘモグロビンA1cが正常であっても、食後三十分値、食後一時間値が200を超えるほど高いという場合があります。 その人たちの糖化反応は着実に進んでいることになるのです。

第4回

食事で満腹感を感じたにもかかわらず、その2時間後に空腹感に襲われ、その後、3~4時間経つとその空腹感は治まる。そういうパターンの人は、食後三十分から一時間でグッと血糖値が上がり、インスリン分泌が促されます。 つまり、インスリン分泌が遅れ、過剰に出てくる傾向にあるのです。すると、インスリンの作用で血糖値が下がり、一時的に低血糖に陥ることで空腹感が刺激されてしまいます。

さらに、インスリンによって血糖値は下がりますが、そのときに発生していた血糖エネルギーはどうなるかといえば、インスリンの作用によって脂肪にかえられているのです。 血糖のエネルギーがどんどん肝臓に溜まり、内臓脂肪として蓄えられます。 午後7時ごろ、夕食をドカ食いしたのに、午後9時ごろになって、また何か食べ物を探してしまったという覚えはありませんか? そんな人は、たとえ健康診断で正常値だったとしても要注意です。

急激な血糖値の上昇とインスリンの大量分泌を繰り返していくうちに、インスリンが効かなくなり、インスリンをつくっている膵臓の中のランゲルハンス島の中の細胞が破壊されてしまいます。 これはメタボリック症候群を増長する「インスリン抵抗性の怖さ」としても注意が促されています。

第5回

美しいハリのある肌を保ちたい人にとって、糖化はもっとも避けるべき生体反応です。これまで肌の老化に関しては「抗酸化ケア」が大切であるといわれてきましたが、糖化についても同様のケアが必要なことがわかってきました。 糖化で肌が衰えるとは、どういう状態なのでしょうか?それは糖尿病にかかった人の肌の変化を見ればすぐにわかります。糖尿病が進行すればするほど、肌はハリを失い、たるみ、黒ずんだ印象へと変化していきます。医師であれば、その肌の状態を見るだけで、「糖尿病がかなり進行している」ということが判断できるほどです。 糖化は、肌のハリを保っているコラーゲン繊維の構造を破壊する生体反応です。糖化によって、肌は正常の弾力性を失い、ハリやつやのない状態に変色してしまいます。 また、糖化によって生じる老廃物が皮膚の細胞に溜まり、くすみや黒ずみの原因となることで、肌の透明感が失われてしまいます。 これまで単に「老廃物」といわれてきたものの中に、糖化によって生成されたものが非常に多いということがわかってきたのです。

このコラムの最初に糖化は「体がコゲる反応」だと申し上げました。肌についても同様のことがいえるのです。つまり、糖化によって肌のたんぱく質や脂肪がコゲたような状態になる。コラーゲンたんぱくやケラスチンファイバーなどのたんぱく質が破壊され、「コゲる」と弾力性が失われるのです。

第6回

美肌のために老廃物を排出する、いわゆるデトックスは女性の間でブームになっています。デトックスの方法として「便秘を解消する」があります。便秘は腸内に便が滞留することで、悪玉菌が増えて毒素を生産しています。その毒素は、腸管の壁を通して血液に逆流し、全身に回ってしまうのです。それが皮膚にも沈着することで、にきびや吹き出物などの原因となるのです。

そこで、さらなる老廃物を産出する糖化が加わると、老廃物は相乗効果で増えてしまい、にきび、吹き出物、くすみなどさまざまな肌トラブルに発展してしまいます。 糖化によって失うもの、それは肌のハリ、つや、輝くような透明感。これらを維持するためにデトックスをしたり、紫外線ケアや保湿ケアに精を出したりしても、内側から糖化によってコラーゲン組織が破壊されてしまうのであれば、焼け石に水です。 もちろん、酸化を防止することは大切ですが、それだけでは肌の若々しさは保てません。 これまで皮膚の老化は、酸化の影響が七割はあるといわれてきましたが、酸化と糖化を合わせて八割以上の影響があると思います。その内訳は定かではありませんが、これまで抗酸化ケアが重要だといわれてきたのと同じだけ、”抗糖化ケア”が必要だということです。

第7回

前回、肌の若々しさは保つためには”抗糖化ケア”が必要だと言いました。では”抗糖化ケア”とはどのようなことなのでしょうか?これは何も難しいことではありません。血糖値を急激に上げない生活習慣のことです。現代の食生活の問題点は、血糖を急激に上げる食材や食べ方が多いことです。 以前にお話ししたように急激に血糖値が上がるとインスリンが大量に分泌されます。それによってインスリンに対する抵抗性が上昇してしまい、インスリンが効きづらくなってしまうのです。 例えば、喉が渇いたと言って空腹時に甘い清涼飲料水や甘みのある炭酸飲料を一気に飲むような行為はよくありません。空腹時の血糖は100程度でも、そこで甘いジュースを飲むと血糖値がグーッと上がり、インスリン濃度も急激に上昇します。 インスリンが大量に分泌されているため、血糖値が下がった後もインスリンは高い状態が続くのです。 インスリンの作用が効きすぎると、低血糖に陥ります。低血糖は体にとって非常に危険な状態ですから、今度はインスリンの効きを悪くするような働きが生体中におこるわけです。これがインスリン抵抗性のメカニズムです。 こうなってしまうとインスリンが分泌されても血糖値が下がりにくい、すなわち生体内が非常に糖化されやすい状態になってしまうのです。

第8回

では、急激に血糖値を上げない食生活とはどのようなものでしょうか。 空腹時の甘いジュースやお菓子はもってのほか。精製された小麦粉を使ったパンなどを食べても血糖値はすぐに上がってしまいます。 精製された小麦粉のパンよりも、胚芽小麦やライ麦で作られたパン、白米よりも玄米を選ぶことで、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます。昔は精製されていなかった食品が多かったのです。今は急激に血糖値を上げる食品であふれてしまいました。精製されていない食品をゆっくり良く噛んで食べていれば、血糖値の上昇もちょうどよく上がるようなしくみになっているのです。 そうした食品の“糖化リスク”を調べるには、GI(グリセミックインデックス)値を利用するとよいでしょう。

GI値はブドウ糖100gを摂取した時の血糖上昇を100%として、同カロリーの炭水化物あるいは他の食品を摂取したときの血糖の上昇比を示す数値です。同じエネルギーでもGI値を比較して、低い方を選ぶことが糖化を防ぐポイントです。

第9回

ダイエットをしている人たちはとかく「低カロリーかどうか」を気にしますが、GI値を目安に食品を選んでいくことも大切です。どちらを食べようか迷う時は、GI値の低い方を選んで食べるということが基本です。GI値が高い食べ物であれば、その食べ方を工夫することで血糖値の上昇を防ぐことができます。 たとえば同じオレンジでも、ジュースにしてしまって一気に飲むより、皮をむいてゆっくり食べる方が、血糖値は上がりにくくなります。GI値の高いものは、気をつけてゆっくり食べることを心がけるとよいでしょう。甘いものを食べてはだめ、というわけではありません。節度を持った食べ方をすれば良いのです。

またGI値の低いものでも食べ方が大切なものもあります。白米より玄米の方がGI値は低いわけですが、仮に主食を玄米に変えても、柔らかくて消化の良い白米を食べる時と同じ食べ方では消化不良をおこします。玄米はゆっくり良く噛んで食べないことには、その良さが引き出されないのです。 ですから白米から玄米に主食を移行するのであれば、噛む練習を一緒にするべきです。そのためには、最初は白米に3割だけ玄米を混ぜることからはじめて徐々に増やしていくのが良いでしょう。玄米を良く噛んで食べるという食習慣が身につけば、玄米の滋養を享受できる上、良く噛むことが唾液の分泌が活発になり消化吸収がよくなりますし、よく噛むという行為によって、脳から出るホルモン分泌も活性化します。まさに一石三鳥、四鳥の効果です。 頬から顎の筋肉がたるみやすいのも、現代においてはよく噛まなくてすむ食材が多いせいです。頬から顎のたるみが気になったら良く噛んで食べる食習慣を身につけましょう。

第10回

ハンバーガーなどのファストフードは、トランス脂肪酸の観点から見ても、糖化の観点から見てもまったくいいところなし、アンチ・アンチエイジングの食事の代表格です。 ファストフードの揚げ物は利便性を重視してトランス脂肪酸が多い油を使っています。さめたフライドポテトは油が酸化しているのがほとんど。トランス脂肪酸のように酸化しやすい油は体によくありませんし、エネルギー量が高いのです。また、ファストフードとは短時間で食べられることがその名前をあらわすとおり、早食いによる食後血糖値の急上昇を招くリスクが大きくなります。

しかし、街にはファストフードのお店があふれています。手軽で価格も安いという点が受け入れられているのでしょう。アメリカでは、子どもの糖尿病罹患率が問題になっていますが、裕福な家庭の子どもより低所得者層の子どものほうが、糖尿病のリスクが高いという調査結果があります。裕福な層は食生活に気を配り、少々高くても極力安全で体によいものを選択するのに対し、低所得者層の子どもたちは、安いファストフードばかり食べてしまっているのです。しかもアメリカの先住民やヒスパニック系の移民たちは、もともと厳しい自然環境の中で生き残ってきた体質を受け継いでいるのに、そういう人々が急に過食に走ると、さらに太りやすいのです。 日本人も長い歴史の中で飢餓に耐えてサバイバルしてきた民族のひとつであり、穀類、野菜、魚中心の食事を続けてきたのに、いきなりファストフードでは、その反作用が大きいのは目に見えています。ですから、アンチエイジングを心がけるのであれば極力ファストフードは避けましょう。